研究紹介

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研究目的・概要

自発的な秩序形成現象は、「自己組織化」や「自己集合」、「散逸構造形成」などと呼ばれ、これまでにも数多くの研究がすすめられてきました。それらの研究の結果として、生命現象にみられる秩序形成現象の一側面の理解は進んだといえます。それでもやはり、無生物と生物の溝は未だに大きく、無生物で形成される秩序構造に「生物らしさ」は認められにくいのが現状です。この溝の原因として、私はシステムの複雑さや階層性の差に着目して研究を進めています。

システムに階層性をみいだすためには、着目しているシステムに加え、その外部環境における現象も同時に考慮することが求められます。これまで、時空間スケールの異なる2つの自己組織化現象が協同的に発現することで、静的な階層構造の自己組織化を実現してきました。現在は、自発的に運動するシステムの集団運動に着目し、動的な階層構造の自己組織化について研究を進めています。

現在は、自発的に運動するシステム(自己駆動粒子)の集団運動を主なテーマとして研究しています。通常、外部環境はシステムの現象に関わらず一定であると考えます。しかしここでは、システムで起こる現象に応じて外部環境(境界条件)も時々刻々と変化すると考えます。この考え方は、システムで起こる現象と外部環境で起こる現象の時定数が近い値の場合に必要となります。この様な条件において、多数の自己駆動粒子(システム)の集団運動を考えると、自己駆動粒子は周囲の環境を局所的に変化させることになります。この局所的な環境変化が別の自己駆動粒子の境界条件を規定するため、自己駆動粒子は間接的に相互作用することになります(下図参照)。このように相互作用する自己駆動粒子の集団挙動を観察し、動的な階層構造の自己組織化の実現および機構解明を目指しています。
Concept

集団運動 - Collective Motion

ミドリムシの生物対流

ミドリムシは光合成を行い、鞭毛を使って移動することができる単細胞微生物です。光に対する受容器を持っており、強い光から逃げる「負の走光性」を示します。このミドリムシの培養液を薄い容器に閉じ込めて下から強い光を均一に照射すると、下の図のような斑点模様が自発的に形成されます。これは生物対流と呼ばれる現象です。ミドリムシは強い光を避けるために上向きに遊泳するために、水面付近のミドリムシの密度(細胞密度)が高くなります。すると、ミドリムシの塊は自分の重さに耐えきれなくなり、沈んで行ってしまいます。このように、光を避ける上向きの遊泳と重力による沈降がバランスして空間パターンが形成されます。
Bioconvection
【関連論文】

  • Takuma Ogawa, Erika Shoji, Nobuhiko J. Suematsu, Hiraku Nishimori, Shunsuke Izumi, Akinori Awazu, Makoto Iima
    The Flux of Euglena gracilis Cells Depends on the Gradient of Light Intensity PLoS ONE 11, e0168114 (2016).
  • Nobuhiko J. Suematsu, Akinori Awazu, Shuhei Noda, Shunsuke Izumi, Satoshi Nakata, and Hiraku Nishimori
    "Localized bioconvection of Euglena caused by phototaxis in the lateral direction"
    J. Phys. Soc. Jpn. 80, 064003 (2011).
  • Nobuhiko J. Suematsu
    "Localized Ordered Pattern in a Hybrid System of Hydrodynamics and Collective Motion"
    J. Phys. Soc. Jpn. News and Comments 11, 06 (2014).


樟脳粒の集団運動

水面を自発的に運動する樟脳粒の集団運動に関して、様々な挙動を観察、機構解明を進めている。樟脳粒の数密度が低いときは各々の粒が自由に運動するが、ある閾値を超えると停止と運動を繰り返す間欠運動が発現することをすでに明らかにしている。これまでに、化学反応との結合系や分子拡散を制御した系(樟脳船)において周期的な振動運動が観察されているが、ここで見出した新たなモードでは運動と停止を非周期的に繰り返すという特徴がある。また、数が増えると、運動するタイミングが揃う同期現象も見出された。
ここで発見された間欠運動の発現機構については現在研究中である。
Collective Intermittent Motion
【関連論文】

  • Nobuhiko J. Suematsu, Kurina Tateno, Satoshi Nakata, Hiraku Nishimori
    Synchronized Intermittent Motion Induced by the Interaction between Camphor Disks
    J. Phys. Soc. Jpn. 84, 034802 (2015).


樟脳船の渋滞

自発的に運動する個体の集団運動は主に生物を対象とした観察、もしくは数理モデルを用いた数値計算が主流ですが、条件制御の容易さや個体間相互作用の明確さから無生物系におけるモデル実験も有用です。本研究では、水面を自発的に滑走する樟脳船を作成して一次元水路に1-51個浮かべ、集団運動を観察しました。その結果、交通流の自由流と渋滞流に対応する挙動、および、アリの行列で認められるようなクラスターモードが確認されました。樟脳船は水面に展開される樟脳の濃度場を介して相互作用しています。この相互作用を踏まえて作成した数理モデルから、相互作用が2体間に留まる場合に交通流の運動モード、それ以上の場合でクラスターモードが現れる可能性があることが示唆されました。このように、樟脳船の集団運動は条件に応じて種々の運動モードを表現することが可能な無生物系のモデル実験であることが示されました。
Camphor jam
【関連論文】

  • Eric Heisler, Nobuhiko J. Suematsu, Akinori Awazu, and Hiraku Nishimori
    "Collective Motion and Phase Transitions of Symmetric Camphor Boats"
    J. Phys. Soc. Jpn. 81, 074605 (2012). - Accepted Tuseday May 1, 2012.
  • Eric Heisler, Nobuhiko J. Suematsu, Akinori Awazu, and Hiraku Nishimori
    "Swarming of self-propelled camphor boats"
    Phys. Rev. E 85, 055201(R) (2012). - Accepted Thursday Apr 26, 2012.
  • Nobuhiko J. Suematsu, Akinori Awazu, Satoshi Nakata, and Hiraku Nishimori
    "Collective behaviour of inanimate boats"
    Phys. Rev. E 81, 056210 (2010).



自己駆動粒子 - Self-Propelled Object

樟脳粒・樟脳船

表面張力や界面張力を駆動力とした自律運動システムがいくつか報告されています。その中で、水面上を移動する固体粒では、連続運動や、移動と停止を周期的に繰り返す間欠運動など、特徴的な運動が実現されています。

樟脳船では、船の設計に依存して、分子拡散の制御による間欠運動の誘起が実現されています。樟脳の粒を水面に浮かべると連続的に運動を続けますが、樟脳粒にプラスティックの板を取り付けて、水面への樟脳分子の展開を制御すると、間欠運動が現れます (下図参照)。この自律運動モードの違いを、水/プラスティック界面における樟脳分子の拡散に着目して数理モデルと実験の両面から運動機構を明らかにしています。

樟脳船は水面を自発的に運動する素子として多くの研究が行われてきていますが、その運動にかかわる様々な物理パラメータは定量的にはあまり明らかにされてきていませんでした。そこで様々な手法を用いて、樟脳船の自律運動に関するパラメータを全て定量測定しています。例えば、船の駆動力は運動しているときは4.2μN、表面張力差にして約1 mN/mであることなどを明らかにしてきています。

Camphor boat
【関連論文】

  • Satoshi Nakata, Hiroya Yamamoto, Yuki Koyano, Osamu Yamanaka, Yutaka Sumino, Nobuhiko J. Suematsu, Hiroyuki Kitahata, Paulina Skrobanska, and Jerzy Gorecki
    Selection of the Rotation Direction for a Camphor Disk Resulting from Chiral Asymmetry of a Water Chamber
    J. Phys. Chem. B 120, 9166-9172 (2016).
  • Yui Matsuda, Nobuhiko J. Suematsu, Hiroyuki Kitahata, Yumihiko S. Ikura, Satoshi Nakata
    Acceleration or deceleration of self-motion by the Marangoni effect
    Chem. Phys. Lett 654, 92-96 (2016).
  • Satoshi Nakata, Miyu Yoshii, Yui Matsuda, and Nobuhiko J. Suematsu
    Characteristic oscillatory motion of a camphor boat sensitive to physicochemical environment
    Choas 25, 064610 (2015).
  • Satoshi Nakata, Miyu Yoshii, Yui Matsuda, and Nobuhiko J. Suematsu
    Characteristic oscillatory motion of a camphor boat sensitive to physicochemical environment
    Choas 25, 064610 (2015).
  • Nobuhiko J. Suematsu, Tomohiro Sasaki, Satoshi Nakata, and Hiroyuki Kitahata
    "Quantitative Estimation of the Parameters for Self-Motion Driven by Difference in Surface Tension"
    Langmuir 30, 8101-8108 (2014).
  • Nobuhiko J. Suematsu, Yumihiko Ikura, Masaharu Nagayama, Hiroyuki Kitahata, Nao Kawagishi, Mai Murakami, and Satoshi Nakata
    "Mode-switching of the self-motion of a camphor boat depending on the diffusion distance of camphor molecules"
    J. Phys. Chem. C 114, 9876-9882 (2010).


環境応答型の自己駆動粒子

樟脳船のように、表面張力差によって駆動される自己駆動粒子において、粒子の周囲の表面張力は駆動力を決める重要なファクターとなります。翻すと、環境条件が直接駆動力に反映される系であるともとらえることができます。この特徴を最大限に生かし、周囲の化学状態に応じて運動が変わるような自己駆動粒子を作成し、その運動の特徴やメカニズムの解明に取り組んでいます。

例えば、自己駆動粒子から周囲にまき散らかされる分子と反応するような環境を用意することで、運動の速さや様相を変えることができます。ベンゾキノン(BQ)という物質は樟脳と同じように水の表面張力を下げる固体であるため、その粒は水面を自発的に運動します。ところが、水相にBQを酸化するような物質(例えばアスパラギン酸)を溶かし込んでおくと、BQは酸化されてハイドロきノン(HQ)に変化します。このHQは表面張力をほとんど低下させないために、粒の駆動力は下がります。そのため、酸化剤の濃度が十分に高い環境下ではBQの粒は駆動力を失って停止したままになります。面白いことに、中間くらいの濃度の時には、BQの粒は運動と停止を周期的に繰り返します。このように、環境に応答して運動様相や運動の速さ、向きなどを変えるようなシステムを開発・研究しています。

BenzoQuinone
【関連論文】

  • Satoshi Nakata, Mio Nomura, Hiroya Yamamoto, Shunsuke Izumi, Nobuhiko J. Suematsu, Yumihiko Ikura, and Takashi Amemiya
    Periodic Oscillatory Motion of a Self-Propelled Motor Driven by Decomposition of H2O2 by Catalase
    Angew. Chem. Int. Ed. 56, 861-864 (2017).
  • Satoshi Nakata, Masaharu Nagayama, Hiroyuki Kitahata, Nobuhiko J. Suematsu, and Takeshi Hasegawa
    "Physicochemical design and analysis of self-propelled objects that are characteristically sensitive to environments"
    Phys. Chem. Chem. Phys. 17, 10326-10338 (2015).
  • Nobuhiko J. Suematsu and Satoshi Nakata
    "An Environmentally Responsive Self-Propelled Object"
    Current Phys. Chem. 5, 21 - 28 (2015).
  • Nobuhiko J. Suematsu, Yumi Miyahara, Yui Matsuda, and Satoshi Nakata
    "Self-Motion of a Benzoquinone Disk Coupled with a Redox Reaction"
    J. Phys. Chem. C 114, 13340 (2010).
  • Keita Iida, Nobuhiko J. Suematsu, Yumi Miyahara, Hiroyuki Kitahata, Masaharu Nagayama, and Satoshi Nakata
    "Experimental and theoretical studies on the self-motion of a phenanthroline disk coupled with complex formation"
    Phys. Chem. Chem. Phys. 12, 1557-1563 (2010).


内部状態を持つ自己駆動系の構築

細胞内部では数多くの化学反応が進行しており、その状態に応じて細胞運動や外部環境への応答性が変化している。そのような内部状態を持った自己駆動系のモデル実験系の構築を目指して、代表的な化学振動反応であるBelousov-Zhabotinsky (BZ)反応を内包した自己駆動液滴系を構築している。ここでは、BZ反応の状態と液滴運動の関係を調べ、液滴内部の化学振動と同期した液滴運動を創出することを目指している。

BZ droplet
【関連論文】



パターン形成現象 - Pattern formation phenomena

Belousov-Zhabotinsky (BZ) 反応

タンパク質や酵素のような生物由来の複雑な分子を用いなくても、生物で観察されているようなリズム現象やパターン形成現象は再現することができます。化学振動反応の代表的な例であるBelousov-Zhabotinsky (BZ) 反応は臭素の酸化物と有機酸、プロトン、金属触媒の混合溶液で起こる化学反応で、リズムやパターン形成現象が認められます。

BZ reaction


化学反応波の集団挙動

化学反応波は、媒体中を位相情報が伝播することで成り立ちます。つまり、物質そのものは移動しないけれど、化学反応の状態が伝播していくことで実現されています。これはサッカースタジアムで観客がつくるウェーブに似ています。このような物質移動を伴わない系で、集団運動を考えるます。単純な系として、周期境界条件下で複数の化学反応波が伝播するとき、その挙動が波の密度にどのように依存するのかを調べます。
この研究で化学反応波の集団挙動の特徴が明らかにされれば、従来、モノが運動する系で考えられていた集団運動の理論を状態が伝播する系へと拡張することができるかもしれません。

BZ jam
【関連論文】

  • Nobuhiko J. Suematsu, Taisuke Sato, Ikuko N. Motoike, Kenji Kasima, and Satoshi Nakata
    "Density Wave Propagation of a Wave Train in a Closed Excitable Medium"
    Phys. Rev. E 84, 046203 (2011).


塩の樹状結晶成長

塩の結晶はよく知られているように直方体の粒に成長します。しかし、条件次第では異なる形状の固形物が成長することがあります。容器に飽和濃度の食塩水を入れ、乾燥させるだけで、容器の壁面に沿って樹状の塩の塊が成長する様子が観察できます。なぜ上向きに伸びていくのでしょうか。どのようなメカニズムで樹状になるのでしょうか。これらの疑問はまだ解決されていません。

Solt Tree


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