刈屋 武昭 KARIYA Takeaki

 

私の専門は、金融工学・計量経済学・数理統計学・事業リスクマネジメント・ERMなどです。特に、経済社会現象のモデリングに興味を持っています。例えば現在、ドクターの指導として、「企業の中での上司と部下の情報ゲーム」についての数理的定式化とシミュレーションによるナッシュ解の導出などの問題を行っています。先端数理科学研究科は、兼担教授です。本籍は、明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科ですので、論文指導は駿河台キャンパスを利用します。現在土曜日を利用しているので、社会人の方が多いです。現象のモデリングでは、対象となる領域の知識と数学的基礎が必要です。対象となる現象の十分な理解なしに、いい問題設定ができません。いい問題設定こそが、いい結果を得る最初のカギです。数学の程度は対象領域に依存しますが、問題を概念的に捉える能力が必要です。

 

研究プロジェクト

 

科学研究費基盤(A)2011-13

金融リスクの分析モデルの高度化とリスクマネジメントへの応用」

20133月国際コンファランス開催予定】

 

金融危機発生から4年、G20諸国が、新しいグローバル金融秩序を求めて、リスクマネジメント(以下RMと略)・改革を進めている。本研究の目的は、日本の金融の国際的競争力を支え、グローバル金融の安定性に寄与するべく、「金融リスクの分析モデルの高度化とリスクマネジメントへの応用」を狙う。信用リスクと市場リスクにかかる金融RMを高度化するために、変動相関構造をもつモデルの定式化、リスクの計測、資産プライシング法の基礎的統計技術を革新的に発展させることをねらう。そのため、次の3目的を並行的に研究する。

【目的1】信用リスクの分析モデルの高度化と応用 (社債価格から倒産確率、回収率の導出、応用)

【目的2】金利リスクの分析モデルの高度化と応用 (国債価格から金利の期間構造の変動モデル、応用)

【目的3】市場リスクの分析モデルの高度化と応用 (分散・相関変動株式モデルの定式化とリスク量の計測)

 

刈屋 武昭 (代表)

研究統括並びに社債等信用・金利モデルの定式化

前川 功一

広島経済大学経済学研究科

市場リスク変動モデル開発・検証

佃 良彦

東北大学経済学研究科

スワップレート・金利変動構造分析

神薗 健次

長崎大学経済学研究科

分散・相関変動株式モデルとリスク量の計

田野倉葉子

明治大学先端数理科学研究科

国債・社債・金利モデルの構築

欧州金融変動分析

乾 孝治

明治大学グローバル・ビジネス研究科

金融商品の流動性分析、社債利回り分析

 

山村 能郎

明治大学グローバル・ビジネス研究科

国債・社債・金利モデルの構築

 

研究内容

金融工学の理論に関して,金融現象が非マルコフ的であるので、離散時間アプローチを提唱し,そのもとで信用リスク理論の展開。また具体的問題では,フォアワード金利モデルの変動構造分析,非線型時系列モデルの検証、国債の価格モデル分析、社債評価モデルと信用リスク分析、転換社債モデル分析、年金のリスク管理,モーゲージ証券価値評価、不動産の収益還元価値法 など。また数理統計の立場から,金融変数の収益率の時系列変動プロセスの検定法の確立,など

保険と金融の融合問題、保険リスクの市場評価問題、不動産開発リアルオプション価値評価問題,エンルギ-リアルオプション分析、事業リスク取引問題など

 

(1)社債価格スプレッド分析とディフォルト累積確率の期間構造

個別社債価格分析の紹介例(刈屋・山村・乾・王の共同研究)

:2010.8の電機・精密の信用スプレッド

個別社債の信用価格スプレッド =社債価格-社債の無リスク理論価格

   =社債価格-同属性(クーポン、満期)国債価格

倒産確率の期間構造2010.8

業種は電力―回収率を0と想定した場合を紹介。

M0は、属性効果(満期選好、クーポン選好)を考慮しないスプレッドのもとでの分析

M1は、満期選好の属性を考慮したスプレッドのもとでの分析

M2は、クーポン選好の属性を考慮したスプレッドのもとでの分析

M3は、両者の属性を考慮したスプレッドのもとでの分析

曲線は、同じ格付けの電力がx年以内にディフォルトする累積確率

 

著書・論文

最近のものを掲載します

統計学者世界ランキング(19801986) 雑誌Annals of Statistics 24位、9雑誌 総合

    41P.C.B.Phillips, et al (1988)   "Worldwide Institutional and

    Individual Rankings in Statistical Theory by Journal Publications 

     Over the Period 1980-1986" Econometric Theory, 4,1-34

著書

1) Kariya,T. and Kurata,H.(2005) Generalized Least Squares, John Wiley

2) Kariya, T. and Liu, R.(2003) Asset Pricing. Springer Verlag

3) Kariya,T.(1993).Quantitative Methods for Portfolio Analysis. Kluwer Academic Publishers( Springer), Boston.

4) Kariya, T. and Sinha, B.K. (1988). The Robustness of Statistical Tests. Academic Press, New York.

論文

Kariya,T, K. Wang, Z. Wang, E. Doi, Y. Yamamura (2012) Empirically Effective Bond Pricing Model and Analysis on Term Structures of Implied Interest Rates in Financial Crisis,  To appear from Asia-Pacific Financial Markets  Springer 

 

Kariya, T.(2012) A CB (corporate bond) pricing model for deriving default probabilities and recovery rates,  To appear from Contributions to Probability and statistics in honor of Morris L. Eaton, Institute of Mathematical Statistics

 

Kariya,T, F. Ushiyama, S. Pliska (2011) A three-factor model for mortgage-backed securities.  Managerial Finance, 37,1068-1087,2011

 

Kariya,T (2011). Weather risk swap valuation. Managerial Finance, 37, 995-1010,2011

K.Kamizono, T.Kariya, R.Liu and Y.Nakatsuma (2006)"A New Control Variate Estimator for Asian Option" .APFM(Asia-Pacific Financial Market)

T. Kariya,Y. Kato, T. Uchiyama and T.Suwabe  “Tenant Management and Lease Valuation for Retail Property:A Real Option Approach”  International Real Estate Review, Vol.8 No.1,44-82 (2005)

和文著書

『統計学』第2版 刈屋・勝浦著 (08)東洋経済新報社

『天候リスクの戦略的経営』刈屋編著(05)朝倉書店

『ブランド評価と価値創造-モデルの比較と経営戦略への適応-』(刈屋・松浦・馬・渡・山之口・齊藤・横田編著)日経広告研究所, 日本経済新聞社2005

『経済時系列の統計-その数理的基礎-』 (刈屋・矢島・田中共著)岩波新書, 2003

『不動産金融工学とは何か-リアルオプション経営と日本再生』 東洋経済新報社, 2003

『金融工学入門』 (刈屋・小暮共著)東洋経済新報社, 2002  

『金融工学とは何か-リスクから考える』(2000)岩波新書

 

    

 

 

論文(和文)

「デリバティブ価格理論の基礎」『経済セミナー』20126月号 37-43

「「合理的」行動とは何かー行動ファイナンスへの考察」『行動ファイナンスから読み解く個人向け投資サービスのあり方』資本市場研究選書No.8 2-22 20119

価値を創造するリスクマネジメント  週刊東洋経済 2010410日号 98-99

刈屋武昭「金融危機と今後の金融システムの動向」『日本大学経済科学研究所紀要』(2010

刈屋武昭「価値創造ERMと企業の組織精神性資産」『監査研究』(200912月号)日本内部監査協会

刈屋武昭「品格ある企業の価値創造と地球サステナビリティ―組織精神性資産の戦略化―」2009、『証券アナリストジャーナル』(2009, 2月号)

刈屋武昭・宮崎勇気・馬渡一浩・岩澤英輝・川北英隆「日本でも進むERM経営とトップランナー企業(座談会)」『証券アナリストジャーナル』20084月号

 

経歴

刈屋 武昭 (かりやたけあき)           1944年生

  歴   賀茂真淵に由緒を持つ浜松市立県居小学校

19633月  静岡県立浜松北高等学校卒

19683月  一橋大学経済学部卒  

19703月  一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了

19753月  ミネソタ大学大学院統計学研究科博士課程修了 Ph.D.

最終学歴・学位    ミネソタ大学統計学Ph.D1975  九州大学理学博士(1982

名誉職       20084月 一橋大学名誉教授

 

職歴

19754月-989月  一橋大学経済研究所講師・助教授・教授  一橋大学評議員94-96

199810月-003月 みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社 理事

20004月-043月  京都大学経済研究所教授 金融工学研究センター長

20043月-  明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授(現在に至る)

20044月〜20103月        同研究科長

2007年4月-  理工学部・先端数理科学研究科教授(兼担)

             

客員職

19799月  ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス客員教授(19806月まで)

19807月  ピッツバーグ大学数学統計学部客員教授(19818月まで)

19847月  経済企画庁経済研究所客員主任研究官(19867月まで)

19869月  日本銀行金融研究所客員研究官(198712月まで)

19881月  ラトガース大学統計学部客員教授(19855月まで)

19908月  シカゴ大学ビジネススクール大学院客員教授(19918月まで)

19933月  グエルフ大学ワインガード客員教授(カナダ)4月まで)

19954月  ケンブリッジ大学アイザック・ニュートン研究所客員研究員

19971月  ラトガース大学統計学部客員教授(19975月まで)

19983月  コロンビア大学客員研究員(4月)

20046月  ()経済産業研究所ファキュリティフェロー(20063月まで)

 

 

受賞

フェロー  米国数理統計学会 (Institute of Mathematical Statistics 1986)

学会賞  日本統計学会賞(1999)  

      日本金融・証券計量・工学学会賞(2007

受賞   松永財団研究奨励賞 (1979)  日本不動産協会出版賞(2007

 

学会等の活動

(1)学会・学術関係

所属学会と過去の役職

  日本統計学会評議員,理事   日本経済学会理事、

日本金融・証券計量・工学学会(ジャフィー)設立初代会長(5.4H8.3) 

  日本不動産金融工学学会(ジャレフ)設立初代会長(H12.11H16.3) 名誉会員

  日本保険・年金リスク学会設立会長(H16.4—H18.3) 名誉会員

 日本価値創造ERM学会設立会長(H19.5-H24.3

 

所属・参加学会 

国際統計学会(ISI)、アメリカ数理統計学会(IMS)*、アメリカ統計学会(ASA)*、

日本統計学会、日本金融証券計量工学学会、日本不動産金融工学学会、

日本保険・年金リスク学会、日本価値創造ERM学会 日本経済学会、

バシェリエ・ファイナンスソサエティ* (*は現在非会員)

 

過去に編集に参加した学術誌

エディター:日本統計学会誌(1986-1988) 日本経済学会誌(1990-1993

Asian-Pacific Financial Markets (1993-98)

  アソシエイト・エディター:日本統計学会誌(1984-1986)、Mathematical Finance1990-2004) Journal of Statistical Planning and Inference (1991-1995)

     Theory and Decision Library (1989-2000), Kluwer Academic Pub.

Statistical Sinica (1993-96)Journal of Data Science(2002-2006)

 

京都大学GCOE研究者「先端経済分析のインターフェイス拠点の形成 (理論・応用・政策の創生と融合)

明治大学GCOE研究者「現象数理学の形成と発展」

 

(2)官庁関係

金融工学関係官庁関係研究

 

財務省・財務総合研究所 40年国債を発行するための「金利モデル」研究会委員長(H19.519.8)投資家と納税者にとってフェアとなる理論価格推定

 

気象庁(02)『企業の天候リスクと中長期予報の活用に関する調査』気象庁委託報告書の研究会委員長

 

気象庁(03)『天候リスクマネジメントへのアンサンブル予報の活用に関する調査』気象庁委託報告書の研究会委員長

 

気象庁(11-12) 交通審議会・気象分科会臨時審議委員

 

経済産業省 三菱総合研究所(04)『事業リスクマネジメントーテキスト』報告書の研究会委員長

 

経済産業省 知的資本経営情報開示分科会

 

経済産業研究所 無形資産研究プロジェクト受託

文部科学省 大学設置分科会専門委員会委員、サービス・イノベーション人材育成推進委員会委員

日本学術振興会 GCOE審査委員

 

柳沢金融担当大臣懇話会『日本型金融システムのビジョン』金融庁委員

1978-85年 日本銀行調査統計局で日銀計量モデルの構築指導

1984-86年 経済企画庁経済研究所客員主任研究官として、企画庁の計量経済モデルに合理的期待形成理論を導入

1985-87年 日本銀行金融研究所客員研究員として、為替時系列分析

 

(3)シンポジウム

20001212-13日 「21世紀の金融と金融工学の役割〜京都からのメッセージ」(主催京都大学)【基調講演講師】21世紀の金融と金融工学の役割」ロバート・C・マートン博士 1997年ノーベル経済学賞受賞者 ハーバードビジネススクール

【パネルディスカッション講師】「金融リスクマネジメント」

2001515日 電力市場自由化の再検証 -グローバル市場における先行例から日本市場が学ぶこと- (マーカスエバンス主催)  ウェスティンホテル東京      基調講演「リスク・マネジメント:カリフォルニア州の電力危機とそのリスクマネジメント構造について(電力自由化とリスクマネジメント)」

2001727Valuation Forum 金融工学的アプローチによる企業経営改革 - Real OptionsBusiness Portfolio Management, Enterprise Risk Management を活用した新たな経営モデル構築(野村證券主催) 8:30-16:00 ホテルオークラ

基調講演「金融工学的企業価値と戦略的事業リスク管理」

 

20021003日 「京都大学経済研究所創立40周年記念シンポジウム〜経済学のフロンティア」 講演「企業経営と天候リスクデリバティブ」

 

2004111日  『金融工学事典』出版記念講演会【金融工学の新機軸】

講演「不完備制度の完備化ー知識時代の挑戦」

 

2005311日   第3回 応用金融工学(野村証券グループ)寄附研究部門シンポジウム『金融工学シンポジウム 2005』 京都大学経済研究所 主催                   基調講演「無形資産による価値創造経営と統合的リスク経営(ERM)の結合」

2005312日  京都大学経済教育シンポジウム                            講演『企業の社会的役割を理解してよい企業を育てよう』

2005513日 金融工学記念シンポジウム 『金融工学の将来展望資産配分/不動産証券化/保険・年金/新BIS規制/経営』  京都大学経済研究所金融工学研究センター 主催 

   パネルディスカッション司会(加藤康之野村証券執行役特別講演)

20060317日 第4回 京都大学経済研究所主催 応用金融工学(野村証券グループ)寄附研究部門シンポジウム2006  講演「企業価値は組織的主観確率分布!-組織的ビューの形成とMA価値評価戦略-」

200607月10日   21世紀COE公開講座 『金融工学への招待-市場からの挑戦を賢く生き抜く-』講演「金融工学から人生を起動する」

20070309シンポジウム2007 【午前】 金融工学の新潮流2007 【午後】 さらに進展する価値創造ERM経営の展望-事業リスク経営と有効な内部統制と無形資産経営の統合-

20071105「伊藤清博士ガウス賞受賞記念(野村グループ)寄附研究部門」創設記念コンファレンス 『数理科学とファイナンスの30年-学術と実務の接点フロンティア-』

 

2010319日経済金融シンポジウム2010 『グローバル金融システムと金融市場の将来』(主催:京都大学経済研究所)-国家金融戦略の重要性と日本の金融のあり方- 一橋記念講堂 柳沢伯夫氏特別講演

基調講演「今後のグローバル金融経済システムと国家金融戦略のあり方
-新しいバーゼル規制対応としての国家流動性保証戦略の必要性-

 

2011916 明治大学金融数理科学ワークショップ

『金融数理科学と金融技術への将来展望―ポスト金融危機への視点―』

主催明治大学先端数理科学研究科 共催文部科学省明治大学紫紺館4F

基調講演「金融産業と金融数理科学の間にある諸問題

 

201238-9日明治大学科学研究費基盤研究(A)金融リスクコンファランス(MFRG)『金融リスクの分析モデルの高度化とリスクマネジメントへの応用―信用リスクと金利リスクー』 明治大学駿河台キャンパス研究棟4F第1会議室

講演「信用リスクマネジメントの課題と展望」

 

日本経済・経営問題

(1)金融問題

「G20によるグローバル金融システムのリスクマネジメントは有効か」

―リスクは下方に対して分散化できないー (日本経済新聞社からの記事 201010月)

金融危機から2年、G20諸国が、新しいグローバル金融秩序を求めて金融市場システムの改革を進めている。これまでの資本主義金融システムに対する政治的グローバル改革・リスクマネジメントである。本稿では、危機は金融商品・資産に関するインセンティブとモラルハザードを媒介にして生起する、というバブルの本質的なリスク構造から、このリスクマネジメントについて議論する。

 

 

1 グローバル金融経済システムのリスクマネジメント

各国金融機関のリスクマネジメント(以下RMと略)のあり方は、グローバルシステム、国家規制、金融機関、金融・ICT技術環境、各国民の金融倫理・風土・リスク選好など、の総合的な視点から見る必要がある。これまでのRMは、金融機関の立場のみから議論しがちだが、今回の金融危機は、グローバル金融・経済システムに起因していたので、現在のRMの動向は、金融システムの改革、金融機関の改革、金融商品取引規制と情報開示、金融技術への再評価という形で、進んでいる。

実際、20094月のロンドンサミットでは、金融危機の再発防止のため、G20諸国首脳が国際政治的枠組みとして金融安定理事会(FSB)を設立し、2010年末までの金融システム改革の実行計画を承認した。このグローバルRMの基本的な考え方は、「システミックリスクの波及」を防ぎ、国際金融市場の安定性を将来的に確保することであり、そのために「システム上重要な」金融市場・金融機関・金融商品の統制とそれに関わる情報開示と監視の枠組みを各国で作ることである。

このシステミックリスク概念は、財務省首脳・中央銀行総裁のもとでの銀行監督委員会によるBIS規制の「銀行間の決済不能リスクの波及」概念から、大きく拡大され、システム全体のリスクの相互関係も考慮しようとしている。世界のGDPの合計の数倍もある金融資本がグローバル経済の中で移動する時代に、今回のFSB改革の流れは、リスクのホリスティック性(総合性)に対応しようとした国際的RMとして評価できよう。

欧米の自由な金融風土を考慮すると、このようなグローバルな政治的RM枠組みへの合意ができたことは、危機がいかに実体経済に広範に大きな影響を与えているか、の証左である。

中でも米国での金融改革法(ドッド=フランク法)の成立(107)は、その代表的なものである。その内容は、@「大きすぎて潰せない」銀行を解散可能にする仕組みの導入(経営のモラルハザードを除去)、A「銀行等の規模と範囲を制限」(伝統的商業銀行への回帰)、銀行で自己取引の禁止、自己資本、レバレッジ、流動性、リスク管理など規制強化、報酬規制、Bヘッジファンド、格付機関への規制、C証券化に関する規制、重要なデリバティブ商品の集中清算と取引所取引の要求、Dシステミックリスクの監視制度設立など、多岐にわたる。米の国家的RMであり、1930年代以来の大改革である。

一方、今年9月にバーゼル銀行監督委員会は、日本にとって厳しい内容をもつ自己資本比率水準に関する銀行規制改革包括案(バーゼルIII)を発表し、11月にソウルでのG20で承認される予定である。

 

2 金融インナーサークルのプロたちのインセンティブとモラルハザードの共有

この政治的RMの妥当性を議論してみよう。まず、RMの基本はリスクを知ること、また一般に金融(お金の流れ)を作るのは、金融商品(=契約)であり、その基本特性はリターン、リスク、時間であること、を確認する。ローリスク、ハイリターン商品はインセンティブを与える。「集団的なインセンティブの暴走」としての金融バブルも、金融商品に対する人のインセンティブに関係して起こる。グローバルな金融バブルの発生には、その対象となる金融商品が大量に必要となる。

実際、すべての経済・金融現象は人の行動が介在して進行する。資本主義は、個人のインセンティブを重視・利用して、需要を作り、資源配分をして経済成長を作り、社会的厚生を高めようとする。その中で、その市場システムと規制と行動規律・倫理・文化などが、インセンティブを統制し、経済現象の変動性を管理しようとする。今回の危機では、米国の金融市場システムのなかで、大量のサブプライム(証券化関連)商品への「金融プロたちのインセンティブの暴走」により、バブルが発生した。

これらのサブプライム商品は、AAAの格付をもち、国債や、ローンを買取し証券化する政府系株式会社ファニーメイ、フレディーマック(088月に国有化)発行のプライム債より、利回りが高いことであった。これらの商品のうたい文句は「リスクの分散化」商品であった。欧米の有数な金融機関や機関投資家は、こぞってそれを大量に購入して、世界全体にその被害を拡散させたのである。金融立国のように見えたアイスランドは、もろくもその基盤を失った。ノンリコースローン制度をもつカルフォルニアも大打撃を受けた。

経済学や金融工学など多くの知識を蓄積してきた21世紀に、多くの一流の金融プロが参加してなぜこのようなバブルを起こすのか。彼らは、証券化商品のリスク構造を見抜けなかったのか。返済不能リスクが大きいサブプライムローンの証券化関連商品のリスク構造自体理解は容易であるはずだし、2000年代初頭に訴訟問題も数多く発生していて、商品性にも倫理的な問題があることを推察できたであろう。

プロたちのサブプライム商品売買の意思決定には、自らのボーナス誘因を正当化するために、ポートフォリオ理論のいう「リスクの分散化」と形式的格付評価への信頼性が利用されたと思われる。リスクをとらないサラリーマン、格付会社のモラルハザードでもある。プロ組織でリスクが的確に評価されていたら、このような量的な拡大はなかったであろう。他方、ウォール街との関係が強い監督当局(SEC,FRB)のトップも、国の景気・持ち家政策を背景に、世界の資本を集めるこの商品は国益に沿うものとして、訴訟が起きていても是認し、モラルハザードが進んでいった。日本のバブルでも金融機関と大蔵省との関係があった。このようなインナーサークル関係者の情報共有と集団的行動に関するインセンティブとモラルハザードの連鎖の防止こそが重要であるが、そのRMは、今回の改革では見えない。

 

3 金融ポートフォリオの下方リスクは分散化できない

今回の危機で明らかのように、多くの金融商品のリスクファクターは、下方変動に関して相関が極めて強くなり、市場リスクと信用リスクは一体化する。そこには市場における「恐怖の共有」的な人間の心理が介在する。その結果、資産の価格下落、市場流動性の枯渇などにより、銀行や生保・年金だけでなく事業会社の財務構造は大きく悪化していった。銀行融資の停止により上場企業も倒産した。銀行はBISの資本規制対策のため、莫大な資金調達をした結果、株式市場の低迷などが起きている。

これまでの金融工学的RMモデルは、下方変動に対して相関が大きくなるモデルでなく、その開発が進行している。これは、BIS規制の市場リスクと信用リスクに分けたリスク量計測やストレステストに対して修正を求めるものである。リスク評価では、金融工学でしばしば仮定するマルコフ型(過去の時系列情報を与えたとき、1期前の情報だけに依存する)モデルには限界がある。信用リスクの変動は、過去との長い相関をもっている。

 

4 リスクの多様な情報の必要性

プロ組織は自分でリスクを評価する能力を持つ必要がある。リスクの見方やモデリングは経済の複雑な構造のため多様である。複雑な証券化派生商品は、不要であろう。信用リスクの格付のあり方も多様であり、特定な方法の限界を理解する必要である。企業に対しては、事業ポートフォリオに依存して、業種ごとの景気変動の影響が異なるので、その相関構造の理解やリスク評価の更なる研究が必要である。

シンガポール国立大学リスクマネジメント研究所(NUS-RMI)では、日本を含むアジア企業の倒産確率の期間構造の情報を無料で提供するプロジェクトが進行している。日本でもこのような公共財が必要かもしれない。IT時代には、リスクの基礎データの安価の提供も社会のRMとして重要である。更なるリスク研究が必要である。

 

堺屋太一・刈屋武昭・植草秀一『あるべき金融-リスクの市場化なくして再生なし-』,東洋経済新報社,2003